自然気胸、聞いたことがない病気ではなかった。
高校の時に、同じクラスのテラケンがやったヤツだ。まさか自分がなるなんて、想像すらできなかった。
時は1993年、携帯電話はおろか、ポケベルさえもまだ普及していない時代。病院で電話を借りて、横浜の実家へ連絡を取る。
「あ、お母ちゃん、今、大学近くの病院におるんやけど、自然気胸って言う病気で、肺に穴が空いて、入院やねんて...。」
「えーナニソレ~ぇ!?」
「だからその、気胸で肺に穴で日赤病院やねんて...」
もー、パニック状態の私に隣にいた看護師さんが
「もしもしお母様でいらっしゃいますか、自然気胸という肺に穴が空いて、そこに空気が貯まって呼吸しにくくなる病気なんです。当院では処置できないので、日赤病院へ紹介状を書きますので、今すぐそちらに向かわせます。」
で、タクシーが到着し、ソレに乗り込む私。
まずは坂の下の下宿に戻り、財布やら住所録やら、とにかく要りそうなものを慌てて詰め込む。
さっきまで大学で一緒に、シメノ宅に電話を入れるも、出ない(留守電にしとけよぉ...)。大学地炊くの友人・知人をあたってみて、スズリン宅の留守電にメッセージを入れておく。
下宿で下の階に住んでいる、仲の良いオバーチャンに一言、「かくかくしかじか、入院で...」と報告だけ入れて(かなり驚いてた、当たり前か)、再びタクシーに乗り込む。
武蔵野赤十字病院についたときにはもう21時頃だったんじゃないかな、しっかりとは覚えていないけど。結構な員数が待合室にいたんですけどね。私、サッと呼ばれました。紹介状の内容で順番が前後するようですが、こういうところで、自分が相当ヤバイ状況にあることがわかりますね。
再度、レントゲンを撮って、処置室で待つ私。
しばらくすると先生が
「じゃ、Tさん、管入れますね。」
へ管を入れる?どこに??
肺があるべき空間に貯まり、肺を押しつぶしている空気を抜くために管を入れるんだそうな。
麻酔を打たれて、ナニやらソコに管をグイグイと入れていく先生。結構な力が入っているようである。何回かグイグイと押された後、プシュ~ッと、正に空気が出る音がした。今思うと、管が肺に到達した瞬間だったんだね。
でだ、この後の私はと言うと...
ゴホ、ゲホ、ゴホ、ゲホ...
咳の連発。間髪入れずに何十回も出たんじゃないだろーか。ヒトは、肺が膨らむと、反射で咳が出るようにできているそうな。
咳が治まり、しばらくするとオカンが現れた。わざわざ横浜から三鷹まで足を運んでくれたんや!
先生に呼ばれて、二人でレントゲン写真を見る。
右肺は胸部全体に白いモヤモヤがある。これに対して左肺の部分は、ほとんど真っ黒、黒い部分は空気なんだそうで、肺はゲンコツ大よりも小さいんじゃないかってくらいまで縮んでた。
「へ~ぇ、人間の肺って、こんなにペッチャンコになるんですネー」
理系出身のオカン、レントゲン写真を見るその目は科学者の目になっていたような気すらした。
で、管を入れた後の写真を見てみると、若干ではあるが、肺が膨らんでいた。
「よく見ると、左側の肺、プツプツッと出っ張りみたいのがありますよね、コレがブラと呼ばれる弱い部分なんです。これが破裂して、そこから空気が漏れたんです。」
「はぁ...で、私はコレから、どーなるんでしょう」
「正式には、明日決定となりますが、ほぼ間違いなく手術になると思います。これだけ立派な気胸さんですから、反対の右側にもブラがあるかも知れませんね。」
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